久遠の絆
皇帝が退位して久しい帝国。


一見何の変化もないように思えるが、その内情は混乱を極めていた。


まずは皇位継承第一位の皇女アニーシャが即位を拒んだことが発端だった。


皇族は元皇帝とアニーシャの二人だけしかなく、このまま帝位が継承されなければ、もはや帝政そのものの意味がなくなってしまう。


さらに停戦協定により同盟の加盟国となった帝国は地盤そのものが揺らいでいる時であり、このまま帝政が存続できない状態となれば、世界の情勢は一気に共和制へと移行することも考えられた。


しかしそれだけは避けねばならない。


いつかまた帝国の栄光を取り戻すためにも、帝政を破棄することだけは出来ないのだ。


となると。


皇女アニーシャがそれを拒んだ今、もっとも帝位に近いのは、彼女の婚約者であり、帝国筆頭貴族である公爵カイル・アルファラしかいない。


よって、皇女とカイルの挙式を早めるよう求める気運が一気に高まったのだった。


しかし、アニーシャはそれすらも拒んだ。


カイルの犠牲的精神を知っているからこそ、これ以上帝国の犠牲となってほしくないからこその拒否だった。


だが、カイルは。


その皇女の気持ちを知っていてなお、彼女との夫婦になることを望んだ。


そして自らが帝位に就くことを。


彼は帝国が同盟の参加国に過ぎなくなったことを己の責任だと考えている。


だから少しでもその責任を取り、いつかまた帝国の威厳を取り戻したいと切実に願っていた。


そのためなら幾らでもこの身を差し出すつもりでいるのだった。

















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