久遠の絆
侍女頭のアンが、蘭の摘んできた花束を花瓶に生け、それを応接セットのサイドテーブルに置いた。
他の侍女がカップを並べお茶を注いでいく。
午後のお茶の時間。
カイルが訪れる時間は決まってこの時分だった。
お茶を頂きながらのほうが気分的にゆったりできていいというのが彼の主張だ。
「今日のお菓子はカイルさまのお母君がお作りになったものだそうですわ」
そう言ってアンが、バラの形をしたクッキーを持ってきた。
「へえ、カイルのお母さんが?」
すると彼は少し照れたように笑って、「お口に合うかどうかわかりませんが」と言った。
「まあ、ラヴィン伯爵夫人さまのお料理上手は、世間一般の知るところですわ」
そうしてアンは、ひとしきり伯爵夫人が如何にすばらしい女性であるかを、蘭に話して聞かせてやるのだった。
(そりゃ、カイルのお母さんだもん。綺麗で、優しくて、賢い方なのに決まってる)
妄想は止まるところを知らない。
その上少し僻みっぽい気持ちになった。
継母はもちろん、実の母でさえクッキーなど作ってくれたことはなかったから。
母の無償の愛というものを感じたことはない。
「じゃ、さっそくいっただっきま~す!」
バラのクッキーをひとつ手にとって、大きく開けた口に放り込んだ。
ゆっくりと味わう。
「蘭さま……?」
カイルが心配そうに声をかけた。
「いったい、どうなさったんです?」
アンが慌てたようにハンカチを取り出した。
「わからない。どうしてだか、涙が……」
そう、蘭は泣いていた。
クッキーを咀嚼(そしゃく)しながら泣いている。
それをようやく飲み込んでもなお蘭の涙が止まることはなかった。
手渡されたハンカチはすでに濡れていない部分がないほどだ。
他の侍女がカップを並べお茶を注いでいく。
午後のお茶の時間。
カイルが訪れる時間は決まってこの時分だった。
お茶を頂きながらのほうが気分的にゆったりできていいというのが彼の主張だ。
「今日のお菓子はカイルさまのお母君がお作りになったものだそうですわ」
そう言ってアンが、バラの形をしたクッキーを持ってきた。
「へえ、カイルのお母さんが?」
すると彼は少し照れたように笑って、「お口に合うかどうかわかりませんが」と言った。
「まあ、ラヴィン伯爵夫人さまのお料理上手は、世間一般の知るところですわ」
そうしてアンは、ひとしきり伯爵夫人が如何にすばらしい女性であるかを、蘭に話して聞かせてやるのだった。
(そりゃ、カイルのお母さんだもん。綺麗で、優しくて、賢い方なのに決まってる)
妄想は止まるところを知らない。
その上少し僻みっぽい気持ちになった。
継母はもちろん、実の母でさえクッキーなど作ってくれたことはなかったから。
母の無償の愛というものを感じたことはない。
「じゃ、さっそくいっただっきま~す!」
バラのクッキーをひとつ手にとって、大きく開けた口に放り込んだ。
ゆっくりと味わう。
「蘭さま……?」
カイルが心配そうに声をかけた。
「いったい、どうなさったんです?」
アンが慌てたようにハンカチを取り出した。
「わからない。どうしてだか、涙が……」
そう、蘭は泣いていた。
クッキーを咀嚼(そしゃく)しながら泣いている。
それをようやく飲み込んでもなお蘭の涙が止まることはなかった。
手渡されたハンカチはすでに濡れていない部分がないほどだ。