久遠の絆
もしあの繭が、夢で見た繭と同じであったなら。


自分は何ておどろおどろしいものを心に置いているのだろう。


あれが繭というなら、あの中には何がある?


汚れているわたしが抱えているものだもの。


綺麗なものじゃないだろう。


これ以上は見たくない。


でも見なくちゃいけない気もする。


ううん。


やっぱり見たくない。


でも見なきゃ。






葛藤する蘭の肩に、ふいに手が置かれた。


はっとして瞼を開けると、そこにはイーファンの心配そうな顔。


「いいのですよ、蘭さん。ゆっくりでいいのです。それが出来た過程には、長い年月があった筈。今すぐに消し去るなんてこと、出来る訳がないのです。どうか焦らないで。ね」


気付けば、冷や汗が体中から吹き出ている。


それ程身体に負担が掛かることをしていたのだ。


自分の心を見つめるということは。


「知らないと知っているでは、随分違います。あなたは知った。だからもう、その黒い男が現れることはないでしょう」


「本当に?」


「ええ。まあ、お別れを言いに来るかも知れませんがね」


「ええ?」


冗談めかして言ったイーファンを蘭は軽く睨んだが、(別れを言いに来るならいいか)と思い直し、滴り落ちる汗を拭った。


何事も、焦ってはだめだのだ。






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