久遠の絆
◇◇◇





蘭はハッとして顔を上げた。


「蘭」と呼ばれたように感じたのだ。


しかし傍にいたイーファンは、穏やかに微笑んでいるだけだ。


「誰かに呼ばれたような気がして……」


「呼ばれた?」


「ううん、気のせいです。そんな気がしただけ」


「……あながち気のせいではないかもしれませんよ」


「え?」


蘭はイーファンの次の言葉を待った。


しかしイーファンが言葉を続けることはなく、蘭の前の、空になったカップにお茶を注いでいる。


「さあ、どうぞ」


「イーファンさん」


蘭はもう一度彼から言葉を引き出そうと試みたが、やはりそれはだめだった。


ほとほとと扉がノックされたからだ。


「イーファン、いいか?」


「ええ、どうぞ」


入って来たのはシャルティ。


ターバンでしっかり顔を覆っている。


「おかえりなさい」


そのターバンを鬱陶しげにむしり取るとシャルティは、「あんたの言った通りだったぜ」と言って、部屋には入らず、体を脇に避けた。


そして現れたのはふたりの男女。


その男性の方を認めた瞬間、蘭は勢いよく立ち上がった。


「マト、どうしてここに?!」


彼ははにかんだような微笑を浮かべている。


その隣の少女は、ひどく仏頂面だった。


蘭と同じくらいの年だろうか。初めて見る少女だった。


マトとよく似ていた。


「ラン、知り合いだったのか?」


シャルティは意外そうに目を見開いた。


イーファンから伝説の巫女姫の関係者だと聞かされていたが、まさか蘭とも顔見知りだとは思っていなかったのだ。


「ええ。彼が、瑠璃の指輪をわたしにくれたんです」


「やはり、そうでしたか」


イーファンは合点がいったように頷いた。


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