久遠の絆
◇◇◇





蘭は混乱していた。


何かがおかしい。


胸の奥から、そう訴えるものがある。


けれど、それを無視しようとする自分もいて。


蘭は混乱したまま通路を走っていた。


しかし、ある角を曲がった所で、誰かに思い切りぶつかってしまったのだ。


ぶつかった勢いで、床に尻餅を……。


着かなかった。


その寸前に、相手の腕が腰に回され、抱き留められたからだ。


その相手とは、シド。


「悪い。ぼんやりしてた」


安堵の溜め息を吐きながら言うシドに、蘭は首を横に振った。


「ううん。わたしこそ。走ってたから」


「何か、急ぎの用か?」


「ううん、違うよ。ちょっと、走りたくなっただけ」


「ふうん?」


シドは怪訝そうにしているが、それ以上追求しようとはしなかった。


「あの、シド」


「ん?」


「腰に手、回ったままなんですけど」


「ん?ああ、そっか。悪りぃ悪りぃ」


シドは蘭がしっかり立ったのを確認してから手を離した。


「さっき、グレンさんと凄い熱く語ってたけど、どうしたの?」


「これからの戦術についてね。話してたんだ」


シドは「ちょっと話すか」と言って、先程グレンといた部屋に欄を招き入れた。


そこにはまだ、細かい文字の書かれた書面や図面が机の上に散乱していた。


「これ、シドが?」


「そう。同盟軍の情報を書いてみたんだ」


いつの間に、これだけの量を書き上げたのか。


彼は自分の仕事に関しては、妥協しないのだ。


「グレンさんて、知り合いだったの?」


「帝国にいた時、ゲルシュ・グレンは俺の上官だったんだ。戦術や用兵に関しては、彼に教えを受けた」


「へえ。凄い人なんだね。グレンさんて」


「熊だけどね」

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