久遠の絆
シドは丸めた紙を脇に置くと、蘭の方に真っ直ぐに向いた。


彼の改まった態度に、蘭はどぎまぎした。


「蘭」


「なに?」


そして彼女の目を覗き込むようにして言った。


「すべてが終わったら、俺と一緒に暮らさないか?」


「え?」


「ずっと考えてたんだ。あの隠れ家で過ごしたように、蘭と同じ時を過ごせたらって。そしたら俺、最高に幸せだ」


「シド……」


シドの表情は、今までにないくらい穏やかで優しかった。


普通なら即OKしてしまいそうなくらいの格好良さだ。


しかし、蘭は。


「ごめんね、シド。凄く嬉しいけど、わたし、駄目なんだ」


俯き加減にそう言った。


シドは穏やかな表情のまま、「何故?」と問い返す。


「だって、わたしはこの世界の人間じゃないもの」


「……そうだな。だが、一緒にいられないということの、理由にはならない。俺がお前の世界に行ってもいいんだ」


「そんなの!無理だよ」


「無理じゃない」


「無理無理無理。シドがあっちで暮らせる訳ないよ。文化が全然違うんだし。それに、もしあちらに来たとしても一緒には暮らせないよ。ほら、わたしに恋人が出来ちゃったら」


「恋人?」


「そうだよ。そうなったら、さすがにねえ」


はははと笑う蘭を、シドはじっとりとした眼で見ている。


「俺が、その恋人になる可能性は?」


「シ、シドが?」


「そう。俺が」


「それは、ないよ」


「ない?」


「うん、ないない。わたし、守護者には恋、出来ないの」


「……どういうことだ?」


「どういうことって、しちゃいけないのよ。だから、ね、シド」


「納得いかねえな」


どすの利いた声に、蘭はびくっとした。


「納得行かないって、シド」


「俺が嫌いだって言うなら、きっぱり諦めるがな。守護者だからって理由なら、どこまでも追い掛ける」


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