久遠の絆
アトゥマと南部国家連合艦隊の進軍は、それから日を置かずして開始された。


それは、まだ態度の表明を渋っている国に対して、参加を促すために大々的な行軍であったけれど、ヘラルドは動かなかった。


迎撃されることなく、艦隊は順調に海上を進んでいった。


「静か過ぎるな」


グレンは不満そうに言った。


これだけの規模の艦隊が動いているのに、反応がないのは逆に不気味。


それが、グレンの気持ちだった。


「被害がなくていいじゃないか」


シャルティは暢気にそう言うけれど、グレンはその熊のような顔をしかめて、

「上陸される前に叩こうってのが、普通だ。よほど自信があるのか。いずれにせよ、気に入らねえ」


「ふうん、そんなもんかね。別働隊もそろそろ動き出す頃だ。なるべくこちらに引き付けておきたいな」


「ヘラルドには筒抜けらしいが?」


「奴は高みの見物だ。いよいよにならなきゃ、出て来ないだろ」


「いいご身分だな。とにかく、一刻も早く首都に着こう。奴を引きずり出してやる」


グレンは意気込み、部下に指示を与えるべく、司令官室を出て行った。







何故、人は戦という手段を用いるのか。


戦の果てにある未来とは何なのか。


見えない未来に、シャルティは不安を覚えた。


自分達の目指す、平和な世界とは何なのか、分からなくなりそうだった。




「イーファン。人間と人間が争う世をなくそうとしていた筈なのにな……。俺は今その当事者だ」


俺に、何が出来る?



そう問うても、答えはもう返ってこない。















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