久遠の絆
翌日の早朝。


蘭が朝餉を頂いている時に、カイルがやって来た。


こんなことは初めてで、蘭もアンを始めとする侍女たちも驚いた。


どこか面やつれして見える彼のことを心配になりながら、蘭は彼の話を聞いている。


「洗礼?」


立って歩くことにも支障がなくなり、この異世界での生活を普通に楽しんでいた蘭は、
聞き慣れない言葉に戸惑いの色を隠せないでいた。


しかし目の前のカイルはいたって穏やかな表情で、そんな彼女を見返している。


「洗礼って、どうしても受けなきゃならないの?」


「蘭さまがこの世界で生活される以上、あちらの世界での穢れを落としていただく必要があるのです」


蘭はきゅっと手首の包帯を握り締めた。


「穢れ……」


そうだ、たしかに私は汚れている。


穢れている。


「洗礼を受ければ、綺麗になれるのかな?」


蘭は俯き、か細い声で呟いた。


「神が、あなたを認めてくださいます」


信仰心の薄い蘭にはよくわからないことだった。


けれどこの世界に居続けたいのなら、受けざるを得ないのだ。


「神殿の占いによると、なるべく早い時期に行うのが良いという結果が出たそうなのです。ですから期日は今週末に、神殿において執り行われます」


「今週末……」


もうあと2日もすれば週末だった。


「すぐだね……」


「どうぞ不安に思われず、心穏やかにお過ごしになっていてください。詳細はまた明日にでもご説明に上がります」


その言葉に素直に頷く蘭に微笑みかけ、カイルは帰って行った。

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