久遠の絆
「申し訳ございませんが、わたくしはご一緒することはできません。アルファラ家の私的な使用人ですから。どなたがお迎えに来られるのかはわかりませんが」


「ううん、いいのよ。わたし一人でも平気。あっちに行ったら、カイルがいるわけだし」


「……蘭さまはお強いのですね?」


アンの思わぬ言葉に、蘭は驚いた。


「……ううん、違うよ。わたしはちっとも強くない。そう見えるのなら、望まないようにしているせいだと思う。望まなければ、裏切られることもないから……」


虚ろな表情で独り言のように言う蘭を見ながら、アンはこの少女の心の傷の深さに思いを致すのだった。





四半刻ほどして、迎えの車が来た。


アンや侍女たちに見送られ、一人車に乗り込む。


車が発進すると同時に、辛そうに表情を歪めるアンの姿が目に入った。


振り返ってももう彼女の姿は小さくなっていて、表情までは見ることができない。


乗車する直前まであんなににこやかだったのに。


(なんなんだろう。なんであんな辛そうな……)


やはりこの先に待つものは、けっして蘭にとって良いことではないのだろうか?


途端に言い知れぬ不安が彼女を襲った。


いつの間にか考えるのをやめていたのに、この世界に連れて来られた理由まで、また気になり始めた。


車に一人、という環境も良くなかったのかもしれない。


運転手との間には防弾ガラスがあり、完全に隔離されている。


考え事にはもってこいだった。


よって、考えなくてもいいことまで考えてしまう。


(洗礼って、ほんとに受けてもいいものなのかな?でも受けなきゃいけないんでしょ?カイルが言ってるんだもん。
でもそれ受けたら、わたし、いったいどうなるんだろう。それはここに来た理由と関係あるのかな?だからカイルはあまりいろんなこと教えてくれないのかな?
ああ、分からない!ぜんっぜん、分からない!)


「もうやめっ!考えるのやめ!考えても分かんないんだもん。
ここまで来たら、なるようにしかならない。なせば成る、だっ!!」


自らに言い聞かせるようにそう言い放つと、蘭はぼんとふわふわの座席に深く座り直し、身を預けた。
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