久遠の絆
「何事もやってみなくちゃわからない」


彼女にしては、随分前向きな発言を繰り返し、蘭は考えることを放棄したのだった。


やがて神殿の白亜の尖塔が見え、ゆっくりと全容が見えてきた。


神々しいばかりに白く輝く石造りの建物。


どこぞの国にある立派な寺院を思い出しながら、蘭は息を飲んでいた。


皇宮と同等の権力を許された、神殿の威容。


眼前に迫り来るようなその迫力に、彼女は知らず身震いをしていた。


車窓にへばりつくようにして外を見ている彼女に、ミラー越しに運転手がしかめっ面を
して見せるが、蘭はまったく気付くことなく、窓ガラスによだれのあとをつけている。


神殿の大階段の下に数人の人影があった。


車は神殿の車宿りに止まると、そこから一人が走り寄ってくる。


どこか見覚えのある背格好。


車から降りた蘭は「ニアス!」とその人の名を呼んでいた。


カイルが来られないときは、彼が蘭のご機嫌伺いにやって来る。


アンやカイル以外では、彼が蘭にとって気を許せる数少ない人だった。


年下ということもあるかもしれないが、軍人と言うにはまだあどけなく、幼さの残る彼だから、蘭も身構えるということがなかったのかもしれない。


大階段までくると、他の3人は軍人ではないということが分かった。


長いローブを纏い、頭には小さな帽子を載せている、


ちょうど蘭がイメージする神官そのものの格好をしていたのだ。


「お待ちしておりました。さあ、こちらへ」


言葉の割には歓迎している風もなく、神官たちは先に立って階段を上り始めた。


「蘭さま」


なんとなく足がすくんで動けないでいる蘭を、ニアスだけは気遣ってくれ、彼女もようやく段差に足を掛けた。


ゆっくりゆっくり上っていく。


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