久遠の絆
白亜の建物に入ると、肌寒かった。


ぶるっと身震いした蘭に、ニアスは申し訳なさそうな顔をしてみせる。


彼はこれから行われようとしていることを知っているんだろうか。


だからあんな表情を?


カイルの近習であるのだから、いくらか事情を知っていても不思議ではない。


たぶんカイルのことだから全てを教えていると言うことはないだろう。


それが信頼する側近であっても、本当に重要なことはカイルの胸の内に秘されているはずだった。


短い付き合いながら、蘭はカイルのことをそこまで見抜いていたのだ。


それでも彼を信じようと思うのはなぜだろう。


蘭は何度も自分にそう問いかけてきた。


彼は、今まで自分の周りにいた人とは何かが違う。


そんな風に思えるものを彼が持っているからだろうか。


きっとそれもある。


けれど彼を信頼してしまう一番の理由は、彼のあの宝石のように美しい瞳のせいではないか。


蘭はそう思った。


立場とか思惑とか、いろんな制約の中で生きる彼が、秘密を持つのは仕方ないことだ。


でもあの瞳を持つ彼が、悪い人であるはずはない。


だから蘭はカイルを信じてしまうのだ。


カイルの秘密を、ニアスなら問えば少しくらい教えてくれないだろうか。


ふとそんな期待が胸をよぎる。


前を行く小柄な、成人にはあと数年を要する少年。


素直で純朴な彼なら……。


彼が尊敬してやまないカイルのことを知りたいと言えば、少しくらいなら教えてくれないだろうか。


しかしそう逡巡している間に、一行は広い部屋へと辿り着いた。


そこが目的の部屋なのか、神官たちは歩みを止め、こちらを振り返った。
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