久遠の絆
愛想笑いすら浮かんでいない表情をこちらに向け、神官の1人が一歩前に進み出た。


「ここは控えの間でございます。しばらくここで待機して、着替えなどを済ませて頂きたく存じます」


すると別の1人が棚に近寄り、そこから神官が身に付けているものと同じ、白い衣を取り出した。


そして蘭に歩み寄ると、無言のまま衣を差し出したのだ。


蘭は恐る恐る手を伸ばし、衣を受け取った。


さらさらとした手ざわり。


上等な絹を使った衣。


薄暗い室内でも、きらきらと何かの光を反射している。


その淡い反射を見て、蘭は頭がくらくらするのを感じた。


極度に緊張しているのだろうか。


意識がぼんやりとして、何も考えられなくなる。


「蘭さま?ご気分が?」


ニアスの心配そうな声にも、うまく答えられない。


「椅子を」


ニアスが引いてくれた木の椅子に体を預けると、幾分か気分の悪さは遠のいていった。


「貧血がおありですか?」


衣を差し出した神官が、さして心配している様子もなく言った。



「いえ、ないです」


「体のどこか終わるいところは?」


「それも、ないです」


「わかりました」


問診のような事務的なやり取り。


ただ単に、蘭が健康体か否かを問うための会話のようだった。


「着替えを済まされましたら、こちらの呼び鈴でお呼びください。」


そう言って、小さな呼び鈴を木組みの見える机において、神官たちは出て行った。

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