久遠の絆
淡い光沢を放つ衣に目を落とす。


でもこれを着てしまえば戻ることはできないのだ。


また迷う。


心を決めたはずなのに、いざとなると迷いが生じていた。


「だって、もうあっちには戻りたくないんでしょう?」

と自分に問いかける。


(そうだ、そうだ)と頷く自分がいる。


けれど一方で、(本当に生まれ育った世界を捨てられるのか?)と問いかける自分もいる。


蘭は頭を激しく振った。


堂々巡りの思考を、すっぱり断ち切ってしまいたかった。


(あっちに帰ったら、またわたしの生活は辛いだけのものになってしまうじゃない!
ここで生きるって決めたんだもん。一度決めたことに変更はなしっ!)


半ば強引に考えることをやめ、蘭は今着ている服のボタンに手をかけた。


その時、バッっとフラッシュがたかれたように閃光が走った。


あまりの眩しさに目を閉じ、静電気に触れたときのような痺れを体に感じていた。


(なにっ?!)



目を開けると、そこは闇の中だった。










手に持っていたはずの衣が見当たらない。


(なになに?どういうこと?)


ふいに胸元に圧迫感を感じた。


ハッとして目を上げると、そこには彼がいた。


悲鳴を上げそうになって、口元を手で覆った。


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