久遠の絆
「蘭さまのお体はまだ未成熟で、この香の成分に耐えられるとは思えない。
もしかしたら命を落とすことも考えられた。短慮に過ぎませんか、大司祭」


淡々と述べてはいるものの、彼の声には明らかな怒気が含まれていた。


カイルの声だけ耳に届き、幾分落ち着いてきた蘭は、彼の言葉の意味を考えていた。


(急にくらくらしてきたのは、その香のせいだったんだわ)


そして幻覚を見た……?


(でも、幻覚ではなかったんだよね?)


やはり状況を把握するには、まだ情報が足りないようだ。


「では、四半刻だけお許ししよう」


苦々しげに言って、セクン大司祭は他の神官を引き連れ出て行った。


こつこつと靴音がしてカイルが近づいてくる。


ふわりと空気が動いて、彼が跪いたのが分かった。


「申し訳ありません」


それまで下を向いていた蘭は、ようやく顔を上げた。


「どうして……カイルが謝るの?」


「細心の注意を払ってあなたをお守りすべきなのに、配慮が行き届いていませんでした。お辛い思いをさせてしまいましたね」


彼の言う『辛い思い』とは、おそらく香の副作用のことを言っているのだろう。


彼は、蘭の体験したことを知らないのだから。


(言ってしまえたら……)


少しは楽になれるんだろうか。


けれど蘭は若く、傷付きやすい。


父親に犯されたと告白したとして、カイルがどう反応するのか見当が付かないし、それで自分が本当に楽になれるのかどうかも分からなかった。


(もっと傷付くのはイヤだ)


だから蘭は、

「気分が悪くなって、あんまりしんどいから暴れちゃったのかしら。よく覚えてないんだけど……」


とごまかしたのだった。


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