久遠の絆
「え、蘭さま?」
ニアスが聞き咎めたように声を掛けたが、それ以上言うなというように蘭は彼の腕につかまる手に力を入れた。
その意を察したのか、ニアスは口をつぐんだ。
(私はカイルに秘密を持った……)
信頼する彼に、どうして告白できなかったのだろう。
彼も蘭に見せていない部分はたくさんあるから、蘭も彼に気を許せていない部分はたしかにある。
けれどこの世界で唯一頼みに思う彼に相談できたなら、彼女はもう少し前に進めたかもしれない。
しかしそうできなかったのは、やはり彼女にとってその事実があまりに重く圧し掛かっているためだろうか。
「着替えをするわ」
「もう少しお休みになったほうが……」
気遣わしげに言うニアスに、蘭は精一杯の笑顔を向けた。
「大丈夫。神官さんも時間がないと言ってたし」
洗礼で生まれ変われるなら、早くそうなりたい。
そう強く思った。
心配そうに見つめるニアスに微笑み返すと、蘭はゆっくり立ち上がり胸に当てていた、これから着るはずの衣を強く握り締めた。
その衣からも、カイルの言う香の香りがしてくる。
(これにも焚き染められていたんだわ)
だからより強い幻覚症状に陥った?
(でもじゃあ、私のドレスは実際にこんなに乱れているんだろう)
幻覚なら起こるはずのないことだった。
思考はどうしてもそこに戻ってくるけれど、蘭はその疑念を振り払うように頭を振り、大きく息を吸い込むとカイルを真っ直ぐに見た。
「もう、大丈夫だから。着替えるね」
カイルは蘭の真意を読み取ろうとしていたのかもしれない。
見つめ返してくる緑の瞳に吸い込まれそうになり、蘭は目を伏せた。
ニアスが聞き咎めたように声を掛けたが、それ以上言うなというように蘭は彼の腕につかまる手に力を入れた。
その意を察したのか、ニアスは口をつぐんだ。
(私はカイルに秘密を持った……)
信頼する彼に、どうして告白できなかったのだろう。
彼も蘭に見せていない部分はたくさんあるから、蘭も彼に気を許せていない部分はたしかにある。
けれどこの世界で唯一頼みに思う彼に相談できたなら、彼女はもう少し前に進めたかもしれない。
しかしそうできなかったのは、やはり彼女にとってその事実があまりに重く圧し掛かっているためだろうか。
「着替えをするわ」
「もう少しお休みになったほうが……」
気遣わしげに言うニアスに、蘭は精一杯の笑顔を向けた。
「大丈夫。神官さんも時間がないと言ってたし」
洗礼で生まれ変われるなら、早くそうなりたい。
そう強く思った。
心配そうに見つめるニアスに微笑み返すと、蘭はゆっくり立ち上がり胸に当てていた、これから着るはずの衣を強く握り締めた。
その衣からも、カイルの言う香の香りがしてくる。
(これにも焚き染められていたんだわ)
だからより強い幻覚症状に陥った?
(でもじゃあ、私のドレスは実際にこんなに乱れているんだろう)
幻覚なら起こるはずのないことだった。
思考はどうしてもそこに戻ってくるけれど、蘭はその疑念を振り払うように頭を振り、大きく息を吸い込むとカイルを真っ直ぐに見た。
「もう、大丈夫だから。着替えるね」
カイルは蘭の真意を読み取ろうとしていたのかもしれない。
見つめ返してくる緑の瞳に吸い込まれそうになり、蘭は目を伏せた。