ホテルの“4つのクリスマスストーリー”
【第1話】遠距離恋愛
彼氏がいるのに“クリぼっち”!?
自分たちを「彦星と織姫みたいだ」なんて思うのは、少し自意識過剰かもしれない。
だけどそんなロマンティック思考が不可欠なほど耐え難い、遠距離恋愛3年目を過ごしている。
『・・・ほんとにゴメン。まさかイヴになるとは思ってなくて』
彼がずっと希望していた出張だ。行かないで、なんて言えるはずない。
それにもういい“オトナ”だから、そんなことしない。
わたしは僅かな自尊心と思いやりを使って、絞りだすように言葉を紡いだ。
「大丈夫。ホテルには友達と泊まるね」
『ごめんね・・・年末年始は、きっと一緒にいられるから』
東京~大阪という約550kmの距離にも負けず恋焦がれあう、わたしたちは離ればなれの恋人同士。
お互いの誕生日や記念日には、ホテルに泊まって贅沢な時間を共有するのが恒例の楽しみである。
新幹線で来る彼のことを考えて、今年のクリスマスイヴは品川駅から徒歩圏内の「東京マリオットホテル」を選んだ。
恋愛を頑張ってきたふたりへのご褒美に、ちょっぴり背伸びして予約したのはエグゼクティブフロアのお部屋。
専用ラウンジで乾杯してほろ酔い気分になったら、贅沢なお部屋をふたり占め・・・なんて、キザで甘い夜を期待していなかったと言ったら嘘になる。
それでも外面を“オトナ”ぶったわたしは、適当なねぎらいの言葉をやっと吐き出してから電話を切った。