ホテルの“4つのクリスマスストーリー”
「あ・・・」
不本意ながら少しだけ見惚れて言葉を失い、口を半分開けて彼を凝視していると、切れ長の目で見下ろされる。
『何見てんだよ』
肩を小突かれ、わたしは思わず目線を逸らした。
昔からなにかとちょっかいをかけてくる幼なじみと、4年ぶりの再会。まだ東京23区外の実家に住んでいるわたしと違って、彼は大学生になると同時に都心へ引っ越したから、地元で偶然会うこともなくなっていた。
自分から話しかけてきたくせに、態度のでかさと口の悪さは相変わらずだ。けれどいざという時は助けてくれるからわたしも随分心を許していて、彼はわたしの唯一の“男友達”だった。
同じ高校を卒業して、お互い違う大学に進学し、社会人になった今でも、たまに連絡をよこしてくる。
そういえば今日の式の数日前にも「行くの?」って連絡が来てたっけ。返信は適当なスタンプで済ませちゃったけど。
「久しぶり・・・」
『行かないの?写真撮影』
チャペルの外ではちょうど新郎新婦の大撮影会が始まるところだったが、人見知りのわたしはとりあえず、欧風の庭を散策するふりをして、群衆から遠からず近からずの距離を保っていた。
「もうちょっとしてから・・・」としばらくたじろいでいると、わたしが出向くより先に、新婦が手を振ってこちらへ向かってくる。
『来てくれてありがとう・・・あ!そういえばこの間、二子玉川の本屋にいたでしょ?声掛けようと思ったんだけど、素敵な男性が隣にいたからそっとしといたのよ。相手には困ってないみたいだし、早くこっちの世界においで~』
心臓が大きく飛び跳ねる。
見られた。月にいちどの、先輩との逢瀬を。