ホテルの“4つのクリスマスストーリー”
【第4話】プロポーズ

玉砕覚悟で逆プロポーズ!?



「お誕生日おめでとう、30代に突入だね」

『ありがとう、いい30代にします』


控えめに刺したローソクを、彼が静かに吹き消す。

今日は彼の誕生日だ。わたしたちはいつもと同じように、ささやかにこれを祝っていた。

今年用意したバースデーデザートは、純白のクリームでデコレーションされたホールサイズのラズベリーシフォンケーキ。

いかにも美味しいおやつを焼きそうな色白で可愛いお姉さんが切り盛りしている、近くの小さなお菓子屋さんのものだ。

彼は生クリームが苦手だけれど、ここのだけは喜んで食べる。ケーキから焼き菓子までどれも味わい豊かで、お姉さんが丁寧に泡立てるクリームはコクがあるのに爽やかなのだ。

記念日だからとわざわざ出掛けたりしないのは恒例化していて、人ごみが苦手なお互いにとってちょうどよい温度の過ごし方であることに変わりはない。

だがこうして穏やかな空気が漂っている中、わたしにはどうにもやりきれない気持ちがあった。

今日も、何もなかったな・・・。

食事の後片付けをしながらそんなことを考えていると、涙がこみ上げ鼻がツーンとしてくる。

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