ホテルの“4つのクリスマスストーリー”
わたしはひとりで2杯目を注ぐ。
泡のプチプチと弾ける音が、男と女の中間のような性別を持った静かな部屋に響き、自分以外そこには誰もいないことを思い知る。
すると自然と彼のことが頭に浮かび、酔いとも悲しみとも判断のつかない熱さが、じわりと身体の中心から広がってくる。
ほどなく、彼女が部屋に戻ってきた。
少し焦ったような、それでもなぜか、少し浮かれた表情をしながら。
『ねぇ、ほんとにごめん。わたし行かなきゃ』
突然彼女はそう言って、身支度をし始めた。
「え、ちょっと・・・」 一応、引きとめようとする素振りを見せてはみたが、そんなことはするつもりもなかった。
長い付き合いだからこそわかる、それは彼女の絶対的な意志だった。
彼女はイヴの夜に、きっと今想いを寄せている男性から誘われでもしたのだろう。
「またすぐ会おうね?」
ほとんど恋人に向けて発するような台詞で微笑み、彼女を送りだす。
再びひとりになると、シャンパンをグラスに注ぐペースも自然と速くなった。まるで自虐的な行為だが、彼と出会った頃の、ただ楽しくて幸せな瞬間ひとつひとつを丁寧に振り返り、なぞっていく。