ホテルの“4つのクリスマスストーリー”
彼とは同じ会社で出会った。
わたしを好きな素振りなんてひとつも見せなかったくせに、突然告白された。
もの静かで朴訥とした人だったけれど、そんな風に意外と内に情熱を秘めているところに惹かれ、わたしたちは恋人同士になった。
しばらくして彼だけが転勤になり、わたしたちの間には物理的な距離が生まれた。
『付いてきてくれるならそれも嬉しいけど、君の希望を尊重したい』
彼はわたしに選択肢を与えたので、見栄っ張りでプライドの高いわたしは残ることを選んだのだった。
「あーあ。こんなことなら誘われてたクリスマスパーティにでも行けばよかった」
余裕ぶりたいがために本当は思ってもいないことを無理矢理ひとりごちていたら、突然部屋のチャイムが鳴った。
せっかちなサンタさんでも来たのかな、クリスマスまではあと1時間以上あるのに、と夢うつつな気持ちでドアを開ける。
カチャ・・・
「?!」
ああ、わたしはついに、幻覚を見ているのだろうか。
そうならば愛のつくりだす錯覚はあまりにも残酷だ。
目の前に立って申し訳なさそうに笑うのは、わたしが会いたくてたまらなかった愛しいあの人。
『遅れてごめん』
そういって、酔いと驚きでよろけるわたしを支えると、話はあとで、とわたしのことをそっと抱きすくめる。
『待ちくたびれちゃった?』
「え、なんで・・・」
訳もわからないまま、再び頬が濡れていくのを感じた。
この人はわたしのことを今夜、何度泣かせれば気が済むのだろう。
最初に好きになったのはこの人の方なのに、なんだかわたしが惚れてるみたいじゃないか。
『ねぇこれ、ひとりで空けたの? 君が寂しいときそんなだと、心配するだろ』
彼は困ったように眉尻を下げながら空になったシャンパンボトルを指差し、そして少し笑って、わたしの散らかしたスナックの袋や涙を拭いたティッシュをいつものように片付け始めた。
『泣かないで、もう大丈夫。ここにいるから』
わたしの頬に手を当てて親指で水分をぬぐいながら、重いとも取れるわたしの愛を魔法のような言葉に換えて、恥ずかしげもなく与えてくれる。
自分よりあたたかい彼の体温が、寂しさをみるみる癒してゆく。
「いつも、ずるい・・・」ぐすりぐすりとしゃくりあげて鼻声で言うわたしの頭をなでて『ん、なに? 聞こえないよ』と、また笑う。