ふたりのアリス
序章

あずみ

私は真っ暗闇の中を走っている。
苦しい。

心臓がドキドキし過ぎて破裂しそうだ。

はぁはぁ、と吐く息が荒くなる。

(あっ!)
前方に光が差して、ゴールテープが見えた。
(もうすぐだ!)
もうすぐ、もうすぐゴールに・・・!

その瞬間、一人で走っていたと思ったら、あたしの横を誰かが横切った。
(えっ?!)
あたしは次々に追い越されてゆく。
(え、何で!?)
必死に足を動かすが、ゴールとの差は縮まらないばかりか、どんどん追い越されていく。
(やだ!どうして!)

すると突然、前方の明かりが翳み、ゴールテープが遠ざかっていく。
(あたしは・・・あたしは一番にならなきゃ!!)
動悸が激しくなるし、足は鉛のように重い。

プツッとテレビの電源が切られたかのように目の前が真っ暗になり、ゴールテープも明かりも何もかも消えた。

(やだ!やだ!嫌だぁあああ!)

ジリリリリリリーッッ

ガバッと上半身を起こすと、あたしは汗だくになってベッドの上にいた。
7時にセットした目覚まし時計が、これでもかというくらいに自己主張している。
(ハアーッ)あたしは大きく溜息を付くと、目覚まし時計を止めて起きあがった。

冷蔵庫から麦茶を取り出して一気に飲み干す。裁く状態の体に水分が行き届く。
(もう4月か)カレンダーの日付の上には大きな桜の写真が。
大学に入って2年目の春か。時が立つのは早い。あっという間の空っぽな一年だった。

洗面所に向かうと冷水で顔を洗う。
(いつまで、あの頃の夢を見るんだろう)
鏡をみると、ぼんやりとして目がうつろな顔が写っていた。


今のあたしは、どこに行けばいいのか、どうすればいいのか分からない。
昔は辛くてもきつくても、ただ、決められたコースを走っていればよかった。
でも、今はそのコースすらないのだ。

あたしは、ゴールの見えないマラソンを走っている。
まるで、小さい頃に読んだ絵本の中の不思議の国に迷ってしまったアリスの様だ。

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