100回の好きの行方
*******

 尚志が、帰ると一人ぼんやり壁の写真を眺めた。

「はぁ……。」

 あんなこと言うつもりじゃなかった。

 麻嘉が、徹夜するのは、あいつがデザインに対する気持ちが強いからで、ナチュラルメイクなのも知ってる。

 実は、キャンプに行った時に、偶然着替えてるとこを見てしまい、巨乳なのも知ってる。

 野菜を手早く切ったり、魚を裁いたりするから、料理が得意なことも、デスク回りが整頓されてるから、掃除が上手いことも知ってる。

「あんなこと言うかな?今まで通りじゃダメなのか?」

 麻嘉とは、同期以上に仲がいいと言えばそうだが、今の心地よい関係を続けて行けることを、望んでいた。

 篤斗の胸を熱くするのは、尚志に話した、好みのタイプ。

 ふと、近くにあるデスクの引き出しをそっと空けるなり、それに触れた。

 いつか逢ったら返そうと、大事に持っているが、5年経った今でも、彼女に、逢うことはなかった。

「ただ、お礼したいんだよ。」

ー作品を造っているものを見て欲しくても、機会がないと目に触れない。作品を生み出すのはデザイナー。作品を、世に広げるのが営業でしょう?営業も素敵なお仕事ですよ!ー

 企画部やデザイン部を、希望していた俺を救ってくれた言葉だ。

 その言葉と、触れているそれは、俺のお守りになった。
< 10 / 188 >

この作品をシェア

pagetop