100回の好きの行方
 つい、先日のことを思い出した。

 父が"28歳まで、一年きったな。"まさか、あんな5年前の約束、自分は忘れかけていたのにと、思ったが、母が亡くなり、こんな広い屋敷に住人は3人。

 長男の俺が結婚しないことに対しては、"男は30からだ。"と、特に何も言わない父が、妹、麻嘉に対しては母が亡くなる少し前から、結婚、見合い、就職しないで良いといっていた。

 5年と言う約束で働き出した麻嘉は、今や立派なデザイナーで、自社ブランドを任される程だ。

 片道一時間半かけて、会社に行き、納期が迫らなければ、どんなに遅くても帰ってくる。

 就職してから、同期の四人で出掛けるようになり、本人より先に、麻嘉が彼に行為を寄せてることに気が付いた。

 いつ、紹介してくれるのか楽しみにしてたんだけどな…と思いながら、いそいそと会社にいく準備をする麻嘉に目を向ける。

 毎日朝食と夕食を作る麻嘉、華道家ならではの所作を身につけているのに、女子力がないと言う、その彼に会ってみたいなと、笑っていると、目があった。

「行ってきます!あっ、兄さん玄関の花、持っていきますね!」

 慌てて出ていく後ろ姿を、優しく見つめ、軽く手をあげ送り出した。
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