100回の好きの行方
「……おはよう。篤人。」

「んっ。」

 目線も合わせずに挨拶する篤人に、麻嘉は胸が締め付けられるように痛かった。二人の中に、昨日とは違う何とも言えない気まずい空気が流れる。

「麻嘉、悪い!昨日はどうかしてた。」

 今日初めて見た篤人の目には後悔の色が窺えた。

「謝らないで!」
 
 そんな顔が見たいわけじゃない。そんな言葉が聞きたいわけじゃない。

 でも、その言葉を声にすることは出来ない。

「好きだから……私は嬉しかった。でも、篤人は違うよね?」

「………。」

「私は大丈夫だから。」

「……本当に悪かった。大事な同僚なのに。」

ー同僚ーその言葉に、麻嘉は、泣きそうになるのを必死で我慢し、突きつけられた現実をどうにか脳内で整理した。

 自分は抱かれても、女じゃなくてあくまでも同僚なんだと、すんなりは受け入れられない気持ちも多いにある。

 でも、気まずいのはもっと嫌で、笑顔を篤人に向けた。

「……同僚として、…ちゃんと……海鮮丼連れて行ってよ?」

 上手く伝えたいのに、声が震えてしまう。

 篤人も気がついてるようだが、気が付かない不利をして、"うん。"と答えてくれた。

 その後、麻嘉は着替えに部屋に戻り、二人はロビーで待ち合わせしてから、約束の海鮮丼を食べに行ったが、行きの車内と売って変わって、話ははずまず、同僚としての仕事の話しかしなかった。

 
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