100回の好きの行方
 イライラした状態で1階に降りた篤人は、エレベーターの近くに一人でいる麻嘉を偶然見つけた。

 考えるより先に体が動き、人がいないことを確認すると麻嘉の腕を急に掴み、非常口の方に引っ張りこむ。

 麻嘉は一瞬の出来事で、バランスを崩しながら相手が、篤人であることを確認すると、驚いた様子をみせた。

 非常口のドアが閉まると、すぐに、非常口の鍵を閉め、麻嘉は扉に背中を当て、壁どん状態で篤人から見下ろされる。

 麻嘉は、篤人をみないように自分の靴を見ていた。

 今までの流れで、今のこの状況がいかに危険なものか、分かっているからだ。

 もう、嬉しい気持ちなんて、期待なんてしたらいけないのにと、思いながら、顔をあげたいのを我慢していた。

 その態度が、篤人のイライラ度をさらにあげてしまう。

「なぁ…。昨日、夜電話したんだけど。」

 耳元で、囁かれ麻嘉はピクッとしてしまう。

「電話、待ってたんだけど。」

 わざと、耳元で話を続ける篤人。麻嘉は何も言えずに手を握りしめた。

「ねぇ麻嘉?」

「ごめん……。用事があって。……」

 本当は、電話があった時は兄と自分の部屋にいてわざと電話を取らないでいたのに、言い訳をした。
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