100回の好きの行方
「これって……、工場長の娘さんの……。麻嘉のデザインしたやつですよ。」

 その言葉に誰もが納得したように顔を見合わせる。

「だよな。みんな麻嘉のデザインだろうなと思ってたんだよ。」

 佐伯が項垂れながら呟いた。

 皆も神妙な顔をしながら、どうしたらいいものかと悩んでいた。

 事の発端は、今朝経済紙をみた工場長と披露宴で指輪を見た面々がデザイナーは菜月ではないと、経済紙に訴えたことからだった。

 昨日、今朝の経済紙の一面に載せてもらうため社長が自ら菜月とともに売り込んだらしい。商品自体はもう少しで出来上がるが、さきに発表して欲しいと。

 社長自身も中々発表出来ないことに焦りを感じていたようで、こんな手に出てしまったが、まさか、この弟ざが菜月以外のものとは思っておらず、今朝から対応に終われているようだ。

 先に指輪をみた人物がいるため、デザイン自体が盗撮じゃないのかと、会社自体に疑惑の目がむき出した。

 世間では先代から代替わりした社長をよく思わない人が多かったため、昔のことを引っ張り出して好き勝手て言われていたのだ。

 麻嘉もこの騒ぎを知っているだろう。だが、彼女はデザイン課には現れないでいる。
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