100回の好きの行方
 佐伯の言葉を聞いた瞬間、尚志が篤人の顔を凝視した。

 篤人の目は見開いており、口も開いたまま何とも言えない表情で麻嘉を眺めている。

 そこでハッとしたように篤人は、菜月に声をかけた。

「菜月。あの鋏、お前のじゃないな!出せよ。」

 篤人に急に声をかけられたが、"あれは、私のよ!"と言って鋏を出そうとしないが、篤人は確信めいたものがあった。

 自分が思い描いていた"着物の女性"が何故だか、麻嘉ならしっくり来る。菜月では疑問しか浮かばなかったのにと、心の中で思った。

 鋏を出そうとしないが、視線がデスクの一番上の引き出しに集中していることもあり、その場所にあると思った開いたままは、引き出しを開けて鋏を探し当てた。

 菜月は一瞬のことで"ちょっと!"としか、声が出せずにいたが、気まずそうな顔をしていた。

「麻嘉。……これ、お前のじゃない?」

 そう言われて差し出された鋏に、麻嘉と嘉也、貴乃の視線が注がれ、"あっ!"と声が重なった。

「麻嘉、これなくしたやつじゃないか?」

「本当だ!!!なくしたと思ってた。篤人が持っててくれたの?ありがとう~大切なものだったの!!」

 そう言って笑顔で受けとる麻嘉を見て、探してた女性は麻嘉なんだと言う、淡いくすぐったい気持ちと同時に、菜月に対して軽い憎悪が芽生えた。
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