100回の好きの行方
 オフィスには麻嘉より先に、課長が来ていた。

「おはようございます。課長。」

「おはよう、さっそく話そうか。」

「はい。」

 まだ、フロアにもオフィスにも人がいない時間に話すのは、実は、麻嘉の後任についてだ。

 麻嘉の実家の事を知っているのが、守衛のおじちゃんともう一人、入社したときからの上司、佐伯課長だ。当時は部長であったが、今は課長になり、時の流れを感じる。

「本当に、良いのか?」

「課長。」

「お前は、立派なデザイナーじゃないか。」

「ちょうど、今年ブランドの見直しですし、5年って決めてましたし…。いいんです、実家の仕事は、母からもお願いされていたことですし。」

「そうか。」

 そう真顔で答える麻嘉に、それ以上は何も言わなかった。

 今年で父との5年、そして5年に一度のブランドの見直しの時期でもあった。

 表向きは、新ブランド立ち上げのメンバー増員だが、本当の理由は、麻嘉の後任を決めるためのメンバーの増員だ。

 麻嘉は、初めから5年たったら仕事は辞めて、家で兄の右腕になろうと考えていた。

 父から出された条件だからではなく、好きなことをやりきるために。

 なのに、父ときたら条件にお見合いをつけてきた。

 それが嫌で仕方なかった。

 ちゃんと家の事は考えてるのにと。
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