100回の好きの行方
 篤人は柄にもなく緊張していた。

 今か今かと麻嘉が来るのを、会社近くのファミレスで待っていた。意味もなく、眼鏡を外しレンズを拭いてみたり、空に近いグラスの水をチビチビと飲んでいたり。

 恋愛初心者のように、ソワソワし落ち着けないでいた。

「はぉ~。」

 長いため息をついた。

 どんな顔をすればいいのか。

 何から話をしようか。

 営業トップクラスの自分のこんな姿を会社の人間に見れたくないと思い、会社の人間が歩いてないか、外に目を向けた。

「!!!!」

 その目に入って来たのは、会社の人間ではなく待っていた相手だった。

 それも一人じゃないようで、近くに和服を着た男性が一緒のようだ。

 目を凝らして見ると、それは会社でみた兄とは違う人物で、距離が近い。だが、すぐに別れたようで、ファミレスに向かってくる麻嘉の姿が確認出来た。

「…………。」

 篤人は一気にテンションが下がっていった。

 同僚にしか見えないと言ったのは自分なのたがら、次の恋に進んでいてもしょうがないのだ。

 でも……そう思い、手を握りしめた時、複雑そうな顔をした麻嘉が篤人に声をかけた。

「ごめん篤人、待たせちゃったね。」

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