100回の好きの行方
「帰る。」

 麻嘉は、財布からお札を1枚取り出し、机においた。自分の発言に"ヤバイ!"と思い慌てた篤人は、咄嗟に麻嘉の手を掴んだ。

「違うっ、そんなこと言いたいわけじゃない!ごめん。」

「……離して。」

 その声が微かに掠れている気がして、麻嘉の顔を見ると、瞳いっぱいに今にも溢れそうな量の涙を浮かべていた。

 それでも手を離そうとしない篤人と視線が交わる。

「…麻嘉……。」

「何で…何で…。私は、篤人のことあきらめたいから、お見合いしたの。私には兄がいるから、関係者と結婚する必要はない……。でも、あきらめきれないからっっっ!!」

 麻嘉はここがファミレスであることや、会社の近くであることも忘れて、気がついたら涙をながしていた。

「同僚になんて戻れないよ……。」

 視線を反らす麻嘉は、急に立ち上がった篤人に引っ張られるようにファミレスを出た。

 レジでお金を払う際、なぜか店員に"頑張れ!"と言われた理由も分からず、どこに向かうかわからない戸惑いよりも、篤人に腕を握られて引っ張られているドキドキの方が勝っていた。

「……同僚なんて思ってねーよ。」

 ぼそりと呟いた篤人の言葉が聞こえず、聞き返すと何も返ってこない。でも、何か言ってくれたことで、麻嘉の緊張も少しは緩んだ。

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