100回の好きの行方
 ちゃんと二人で話したいと連れて来れたのは、最近何かと話題に出てくる"ラブマルシェ"に併設されているホテルの一室だった。

 タクシーで行き先を告げられた時も驚いたが、ホテルについて空室の中からセミスイートを選んだ時は、さらに驚いて目を見開き、篤人をみてしまった。

 部屋に入ると、篤人は一目散にテーブルの上に置いてある、セミスイート宿泊者の特典と思われるシャンパンを開け、二つのグラスに注ぎこんで、麻嘉に薦めた。

 麻嘉はただ入り口に立ち尽くし、首をふった。

「わるい、非常階段でキスしたのも、さっき聞いたこともただの、ヤキモチだ。」

「はっ!?」

 突然、そんなことを言われ、目が点になった。

 今でも非常階段でキスされたことを思い出すと、体の芯が熱くなるのがわかる。

 さっきのこととは、たぶん"結婚"についての発言だと思ったが、"ヤキモチ"ってどういうことなのだと、考えてしまう。

「俺、入社してからずっと彼女なんていなかった。」

「えっ?だって、深山さんは?」

「ストーカーに悩まされてるからって、恋人のフリをしてただけ。菜月が麻嘉に何て言ったか知らないが、抱いたのは麻嘉だけだから。」

 

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