100回の好きの行方
「まだ、頭がガンガンする。胃はムカムカするし。」

 運転しながら信号で停まる度に、眼鏡を外しこめかみを押さえる篤人に、苦笑する麻嘉。

「あんなに酔っ払ったの初めてみたよ。」

「自分でもびっくりだ。安心感と達成感と、なんか色々混ざって……。本当、彼女の実家で何してるんだか……。」

「私は嬉しいよ!打ち解けてくれて!!」

 ニコニコ笑う麻嘉を見ながら、心の中でため息をついた。

 何故なら、会社近くのファミレスにいたことを尚志だけに知られていたと思っていたが、どうやら数名の社員もあのドタバタ劇を見ていたようで、"タクシーで王子が姫をさらった!!"とツイッターで呟かれたらしい。

 そんなことを知らない麻嘉は、久しぶりにデザイン部に戻れるのを楽しみにしていた。

 ふと助手席を眺めると、麻嘉は手帳を見ながら楽しそうにしていた。

 ちらりと覗くと、手帳の端の"正の字"を見ているようだ。

「さっきから楽しそうだけど、何?その正の字。」

 見られているとは思わなかった用で、慌てる麻嘉に、何でこんなにも慌てるのだろうかと思っていると、顔を赤らめて、小さい声で呟いた。

「……私が、篤人に好きって言った、回数なの。」

 それから、"今日の朝で100回目だった。"と、消えるような声で恥ずかしそうに、下を向きながら言った。



 好きと100回言えば伝わる?

 好きと100回言えば付き合える?

 でも、101回目のチャンスは、訪れない……。

 自分で決めた終わりのチャンスだった。

 だからきちんと100回、あなたに気持ちを伝えた。

 その結果、気持ちは伝わり、幸せになることが出来た。

 ー100回の好きの行方ー

 それは、幸せなるために必要な言葉だった。

                     (完)
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