100回の好きの行方
 篤斗の胸を何度かドンドンと叩き、やっと開放された時は、麻嘉は、気持ちが高揚してか、うっすらと頬が赤く、瞳は潤んでいた。

 普通はこれから、大人な関係に発展するのだろうが、やっとのこと適応している麻嘉の思考は真っ白だ。

「……何でっ?」

「……。」

 何も言わずにただこっちを見ているのが分かり、顔をあげずにいると、顎をクイッと持ち上げられ、視線が交差した。

「本当に、激しいキスしても落ちないんだ。この口紅。」

 篤斗からの言葉は甘いものではなかった。

 何か期待したわけじゃないのに、頭を固いもので殴られたような感じだった。

「もう、挨拶したしタクシーで帰れよ。」

「…大丈夫、電車あるし…。」

 やっとのこと、口を開き答えると、スタスタと会場に戻る篤斗を無言で見送り、ただ呆然と麻嘉は立ち尽くした。

 そして、唇にそっと触れ、状況を整理した。

 触れた唇は熱く、余韻もある。
  
 今起きたことが嘘でないことを物語っており、麻嘉は、力なくその場にしゃがみこんでしまう。

 反対に、飄々と掴み所がない雰囲気で、黙ったまま会場に戻る篤斗。

 会場から麻嘉をつれだした篤斗の様子を気になり、後を持ってきた尚志は、二人のこの現場を見てしまい、呆然とただびっくりして立ち尽くした。

 
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