100回の好きの行方
 見られていたことを知らない篤斗は、そっと唇を拭った。

 麻嘉の口紅が落ちてなかったのだから気にすることでもないが、ふと、そうしてしまった。

 あんなことするつもりではなかったのに、麻嘉にイライラさせられ、なんでイライラしているのか分からない自分に嫌気がさして、気がついたらキスしてしまっていた。

 普段と違うメイクは驚きよりも、違う麻嘉を見れて単純に嬉しかった。

 コートを脱いだ時は、ただその色気に魅了された。

 胸や体のラインが強調されたドレスも似合っていて、こんな麻嘉を見たのは入社して初めてだ。

 だが、麻嘉を見る男性の視線にイラッとしてしまう。

 声をかけられ低調に断る麻嘉の姿が、何故だか断り慣れてるように見えて、正直ムカッときた。

 そして、社長の明らかな口説きを目の当たりにすると、自分の中で何かが切れてしまった。

 女として見ていないといいながら、このままの関係に満足しているのに、本当にあの時はどうかしていたのだ。

 なんであんな事したのかと聞かれれば、それはたぶん、"酔ってた"からだ。

 お酒なのか、雰囲気なのか、はたまた麻嘉になのか。

 会場に戻り渇いた喉を潤すように、ワインを流し込んだ姿を尚志がじっと見ているのには、気が付かなかった。
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