100回の好きの行方
 そんな篤斗と彼女の出会いは知らずに、麻嘉は、出張明けに出勤してきたら、必ずキスの理由を聞こうと思って、張り切っていた。

 あの時、尚志に見られていたとしった麻嘉は、キスされたことが現実だったんだと、改めて分かり、嬉しい気持ちになった。

「篤斗は、誠実なやつだから、なんか意味があったんだよ。キスしたのには。」

「良かったじゃん。ファーストキスが篤斗で!」

 尚志と千華、二人にもそう言われ、舞い上がってしまっていたんだ。

 やっぱりたくさん"好き"と伝えたのが良かったからのだろうか、アピールがちゃんと出来たんだ。

 麻嘉は、今日までに伝えた"好き"の数を正の字グラフをこそっと見ると、ちょうど30回を示していた。

 だが、篤斗からの仕打ちやキスの理由に呆然としてしまうなんて、麻嘉は夢にも思わなかった。

*******

「こんにちは、篤斗いますか?」

 お昼休憩に差し掛かり、みんなそれぞれに過ごしている所に真っ黒なロングヘアーに、いかにも女子力が高そうな装いの大和撫子風の女性がフロアの入り口にいた。

 麻嘉は誰なんだろうか、姉かな、妹かなと呑気に考えていると、尚志が入り口に向かって行くのが分かる。

「篤斗ならもうすぐ出勤してくると思うけど、約束ですか?」

「ええ。お昼約束してまして……。」

「すみませんがどなたですか?」

「支店に勤めています、深山菜月です。篤斗と付き合ってます。」

 耳を済ませて聞いていた麻嘉は自分の耳を疑った。

 それは、尚志も同じようで目を見開いていた。
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