100回の好きの行方
「菜月、いいかげんにしろよ。」

 今だかつて、こんな低い声で叱咤する篤斗を見たことないみんなは、息をのみ、驚いた。

 誰かを注意するときは、フォローをしながら、穏やかに注意するため、こんなに怒ることはないのだ。

 菜月本人は、うっすらと涙目になっている。

「公私の区別をつけろよ。仕事を舐めるなよ。相手があっての仕事なんだよ。それを誰がやっても一緒?誰がデザインしても相手は分からない?そんなことはない!相手はすぐ気が付く。与えられた仕事をしろよ。」

 篤斗のインテリメガネの奥の瞳が、菜月を睨み付けている。

「あ…篤斗。」

 菜月は、唇を噛み締め、涙を流すのを我慢してるように見える。

「麻嘉と何、競ってんの?」

「えっ?私、競ってなんか……。」

「麻嘉は自社ブランドのデザイナーだよ。配属されて何日間で勝てる相手じゃない。それに、俺とどうあれ仕事に支障はでない。フラワーシリーズは麻嘉と俺のブランドだから、菜月にデザインは出来ないよ。……頭、冷やしてこいよ。」

ーフラワーシリーズは、麻嘉と俺のブランドー

 その言葉を聞いた菜月は、キッと麻嘉を睨み付け、荷物をまとめ、佐伯に早退を申し出て帰っていった。

 麻嘉は、菜月に睨まれても怖くなかった。その言葉が嬉しくて、また、篤斗に対しての気持ちが溢れて来るのが分かる。

 営業に出掛けようとする篤斗を、麻嘉はふいに追いかけた。
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