100回の好きの行方
 大袈裟かもしれないが、本当に、周りから色がなくなった。

 心の中で、菜月でないことを祈った。

 自分の淡い恋心を美化したくて。

 がっかりしたくなくて、失恋した気分だ。

 そんな篤斗の気持ちを知ってか知らずか、二人は篤斗にお酒を進める。その日、篤斗は久しぶりに酔い潰れるほど、お酒をのんだ。

 酔いが周り座敷にゴロリとなると篤斗はいつの間にか寝てしまった。

「ねぇ、篤斗は鋏の持ち主が好きだったわけ?」

「んー。本人はお礼を言いたいみたいなこと言ってたけど。」

「そのわりには、なんでこんなに落ち込んでんのよ?」

「やっぱり気になってたんじゃねーの?」

「でも、麻嘉もなんか浮かばれないよね…。好きな相手と初体験して……。相手は付き合ってる振りをしていて…。」

「まぁ……。俺たちにどうすることも出来ねーよ。」

 二人の話は、篤斗をさらに深い眠りへと誘う。

 どうやって家に帰ったかは知らないが、気がついたら尚志と自分のアパートのラグマットの上に転がっていた。
 
 ぼんやり眠りから覚めるとカーテンから光が射し込んでいる。

 ふいに、鼻をかすめるいい臭いに、ぼんやりしていた目が一気に覚める。

 誰かがキッチンにいる気配がして覗くと、篤斗は驚きのあまりテーブルで足をぶつけてしまう。
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