100回の好きの行方
「麻嘉、私、着替えて来るから2時間後に駅で待ち合わせね!」

 尚志のあとを追うように、手にサンドイッチを持った千華が部屋を出ていった。

「えっ!?ちょっと!」

 キッチンから出てきた麻嘉と、バスルームから出てきた篤斗は視線がぶつかり、ふたりは慌てて視線を外す。

「……着替えたら……。」

 そっぽ向きながら麻嘉にそう言われ、篤斗が自分がボクサーパンツ一枚であることに気がつき、近くにあったスエットに慌てて着替えてキッチンに行くと、テーブルにはしじみの味噌汁とご飯にたまごやき、鮭のさかなが準備されてた。

「あれ?」

 千華はサンドイッチを持ってたよなと思うと、麻嘉はラップにくるまったサンドイッチをキッチンで食べている姿が目に移り、その姿にクスリと笑ってしまった。

(俺が昨日飲み過ぎたからだろうな。)

「麻嘉、こっち座ったら?」

 自分の前の椅子に座るように声かけすると、すぐに移動してきた。

 言われるのを待ってましたと言わんばかりと対応に、尻尾をふる犬のように見え、また、笑ってしまった。

 久しぶりに二人で顔を合わせ、あれ以来のせいか、麻嘉はぎこちなく目があっては逸らしたりしている。
  
 その姿に、何故かホッとしてしまい、消えた筈の背中につけられたあとが、疼くような気がした。

 会話はなかったが、そんな時間がとても穏やか一日を運んでくれ、心の中で、篤斗は千華に感謝したのだった。
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