100回の好きの行方
「手頃なファッションリングをたくさん売るのと、高いマリッジリングをひとつ売るの、俺はお客さん一人ひとりに笑顔になって貰えれば、べつにそれで構わないと思います。」

 話を黙って聞いていた篤斗が発言する。

「確かにそう言う考え方もある。でも、メディアに出るのにデザイナーは二人もいらない。朝霧さんは華やかさもないしメディアを魅了する要素は皆無だ。その分、深山さんにはある。新生として売り出すからには、古いものはいらない。……君は、必要ないんだよ?」

 そう言われて手渡された辞令には、

ー総務部 社内倉庫清掃係りに異動ー と書かれていた。

「……人のものは寝とったらいけないよ。倫理に触れるようなことはしないように。」

 みんなに聞こえるように大きな声で言われ、篤斗と尚志が前に出ようとするのを佐伯が止めた。

「早く荷物をまとめて、引き継ぎはいらないよ。全部深山さんに任せればいいから。」

 そう言うと、フロアから出ていった。

 暫くみんなが呆然と不穏な空気が流れる中、菜月が明るい声を出す。

「今日からすっごい忙しくなります、私。……朝霧さん、デスク片付けてくれないと仕事出来ないんですけど。」

 
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