好きになるということ。
翌朝、近くのカフェでドンッ!っと机を叩く音が響いたのは、間違いなく目の前の人の静かなる怒りからで。
「...舐めてんの??」
ニコリと笑いながらも、言葉は暴力的で、笑って見えているのに、目元だけに怒りを感じる恐怖感はまさに鬼だ。
「...100は書いてるし、そんな酷くないじゃん」
「いや、先週から何も変わってないでしょーが。」
必死に書いた私の原稿に赤い文字がザーっと書かれていく。
血をバンバン流している原稿を見ていられなくなった私が、ふいに窓の外を眺めると、今日も忙しそうな人間達で溢れかえっていた。
私には多分―――欠落している感情があるんだろう。
「...一作目みたいにどうして書けないの...?」
頭を抱えながら下を向く彼女を見ても、可哀想とは思わないし、寧ろ“書けない”私の方が可哀想だ。
だけど―――そんなことどうでもよくって、次の言葉に私の人生が終わったと思うことを告げられるなんて...ほんと今日はなんて日なんだ。
「会社から今月末までに新作上げれないと、今貸してるマンションから出て行かせるって言われたの...書かなきゃ路頭に迷うわよ」
相変わらず平気な顔して酷な事を言うなあ...怜ちゃんは。