好きになるということ。
タクシーを使うのを辞めて、歩いて帰ることにした私は、すれ違う人達の忙しそうな表情を見ながら、この先どうやって生きていこうかと考えていた。
部屋から追い出されると、今収入がないこの状態で、部屋を借りるのは難しい。
貯金が減っていっている通帳を見てもそんなに危機感を感じなかったのに、ここにきて“ようやく”危機感を覚えた。
「たけちゃーーーん!!」
「いや、知らないし。つか自業自得でしょーが」
グサグサと言葉をオブラートに包む事を知らない私の親友、竹田沙里奈がモツ鍋をつつきながらTVのリモコンに手を伸ばす。
面白い番組がないと怒りながらも、皆の小皿に取り分けてくれるところは流石姉さん基質といえよう。
「でもさ、でもさ、じゃあ書いたらよくない??てか、結子なら書けるって!」
「あんた...簡単に...書けてたら結子だってこんなに悩んでないわ!脳内いつまでお花畑だ」
「だって~...あたし結子の書く本好きなんだもん」
どんな時もポジティブ発言してくれるもう一人の親友、浅田美希が竹ちゃんに入れてもらったモツ肉を美味しそうに食べながら、私の一作目の本を鞄から取り出す。