サンタクロースは君だった
* * *

 映画館に着くと、自然に手が離れた。関係者専用口から自分が入る日が来るなんて、思ってもみなかった。

「…き、緊張…する…っ…。」
「え?普通にしてて大丈夫だよ。それにひかりちゃんの見たかった映画でしょ?」
 
 ひかりは頷いた。原作を知っていて好きで、キャスティングもなかなか良いと思っている。もちろん期待はしているが、それよりも何よりも関係者席で、関係者と友人の隣で映画を観ることの方に心臓がもちそうもない。

「さてっ、始まりますよーひかりちゃん。」
「…うん。」

 ごくりと喉を鳴らした。ゆっくりと暗くなる劇場。人々の熱気。それもそのはずだ。あの成瀬実弥が、映画の後に登場するのだから。

「実弥くんが出るんだよね!?映画のあと!」
「やばいよね!本物だよ?」

 そんな声がどこからでも聞こえてきそうな勢いだ。若い子たちの熱気に押されてそわそわしているひかりをよそに、隣に座るレオは真っすぐにスクリーンを見つめていた。

(いつもと顔が違う?)

 真剣な目を見たことはあったけれど、今感じている真剣さを感じる眼差しは初めてかもしれない。少し前のめり気味になりながら食い入るようにスクリーンを見つめるレオからゆっくりと目を離し、ひかりも真剣に映画に集中することにした。


* * *

 エンドロールを見つめて、ひかりはやっぱりなと心の中で呟いた。

(曲がいいなと思ったら、やっぱりそういうことだった。)

 エンドロールに流れた曲も、3つの挿入歌も作詞、作曲はレオだった。

「…レオくんもばっちり関係者じゃない。」
「…実弥の頼みだったからね。」
「…曲がいいなって思ってたらやっぱりレオくんだった。」
「え?」
「歌詞とかいいなーって。曲調もだけど。映画にも合ってるなって思ったけど、曲一つとってもすごく好きな感じで…もしかしてって思ったらやっぱりだった。…ずるいなぁ。」
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