サンタクロースは君だった
* * *

(…最悪だ…。ズキズキする。)

 朝からだるくて、熱を測ったが見ないふりをした。シフトは変えられないし、今日という日に休みを入れている子たちはもれなく彼氏のためであるため、たかだか微熱程度交代をお願いする元気もひかりにはなかった。今日は早番であり17時には帰宅した。冷蔵庫を開け、昨日作った生チョコレートを箱に詰めた。身体が震える。そんなものは錯覚だと自分に言い聞かせ、震える身体に喝を入れる。レオに電話をしなければ。
 レオはコール2回ですぐに出た。

『もしもし!』
「あ…レオくん?あのね、さっき仕事が終わって…。」
『…あれ、ひかりちゃん、なんだか声変だね?…風邪ひいた?』

 さすがプロの耳である。

「っ…ちょっとだけ。」
『熱は?何か持っていくものある?』
「な、ないよ!むしろ私が今から行こうかって…。今お家?」
『家で仕事してるけど…。風邪なら僕行くけど。』
「だ、大丈夫!えっと、今から行くから待っててね。」
『あ、ひかりちゃん!』

 このまま話し続けるとばれてしまいそうだ。プロの耳を欺くことなどひかりにはできそうにもない。ひかりはコートを羽織り、マフラーを巻いてキンと冷えた夜の空気の中、歩き出した。

(…寒い。でもレオくんのお家は暖かいから…多分大丈夫。チョコ渡して、ありがとうって言って、風邪うつすとだめだから帰りますって言って。…よし、これで完璧。)

 脳内シュミレーションは滞りなく終わった。レオの前でこのセリフをスラスラ言えればいい。今日はこの前のデートの感謝の気持ちを込めたチョコだ。今日渡さなかったら意味がない。それに。

(…レオくんが笑ってるところが、無性に見たい。)

 レオの方の仕事が立て込んでいたようで、あのデート以来顔を合わせていなかった。本当はご飯だって作ってあげたい。体力が残っていれば、だけれども。
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