サンタクロースは君だった
「手洗った?うがいした?」
「…けほっ…どっちも…したよ。」
「あ、咳まで出てる!ちょっと待って!マスク持ってくる。ソファーに座ってて。」

 レオは戸棚の中をごそごそとあさっている。ひかりはそっと、ソファーに腰を下ろした。

「あった。女性用じゃないから大きいけど、今日はこれで我慢してね。今度ひかりちゃんサイズ買っておくね。」
「…あり…がとう。」
「はい、マスクもつけたしひかりちゃんはベッドに直行!」
「え…あ、待って。あの、これ、これを今日は絶対に渡したくて…。」

 全然、スマートじゃない。微熱を出してチョコレートを届けに来るなんて自分でも勿論想定していなかった。人生で初めて男の人にチョコレートをあげるというのに、これじゃあまるで格好がつかない。

「…ほんとはね、お仕事の邪魔にならないように渡すだけ渡して帰ろうって思ってたのに…ごめんね、…逆に心配かけちゃって。…えっと、この前のお礼、です。すごく…えっと、楽しかったから。」

 袋を受け取ったレオは、小さく微笑んだ。

「…ありがとう、ひかりちゃん。」

 一呼吸置いてから、またレオが口を開く。

「…僕もすごく楽しかったから、ひかりちゃんの風邪が治ったらまた出掛けようね。」
「…うん。」

 ひかりも精一杯の笑顔で返す。優しく笑うレオはその笑みを崩さないままに、ひかりの手を引いた。

「ではまず、風邪を治しましょう。」
「え、えっとだからあの私帰り…。」
「ません。ベッドで寝る。ご飯食べたの?」
「食べてません…。」
「眠い?」
「…眠いというよりは…寒い?」
「薄着だよ!僕のスウェット貸すから着替えて。寝るとこ、ここだから。はい、スウェット。5分経ったら入るから、5分以内に着替えてベッドの中に入ること!よーいどん!」
「えっ!?うわ、はい!」

 レオの勢いに押されて、ひかりは慌てて返事をした。レオはそっと、ドアを閉めた。
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