サンタクロースは君だった
 毛布からも枕からもレオの匂いがした。そんなことを言ってしまえば変態のようだが、事実そうなのだから仕方がない。レオの香りは落ち着く。香水などのきつめの匂いが苦手なひかりも、柔軟剤の香りは好きだ。

「ひかりちゃん?入るよ?」
「は…う、うん!」

 ドアが開き、部屋にレオが入ってきた。

「あ、さっき触った時より上がってるかも。」
「ひゃ…!」
「ご、ごめんねひかりちゃん!まさかそんなにびっくりするとは…。」
「ち、違うの…あの、嫌とかそういうことじゃなくて…。」

 29歳がこんな発言をしてていいのだろうか。大失態祭りだ。バレンタインデーに熱を出し、年下の男の子に看病されそうになっている。そしておまけに中学生の初々しい少女漫画みたいな発言。巻き戻せるなら巻き戻せるだけ
時間を巻き戻して、人生をやり直したい。
 レオに触れられると嬉しいと思う反面、どうしていいかわからなくなる。時々、もっとって思う瞬間がある。その手が優しいから。そして何より、目が合った瞬間に見えるレオの笑顔に胸の奥がくすぐったくなるからだ。

「嫌じゃ…ないの?」
「え?」
「あ、えっと、嫌われてるとは思ってないよ、さすがに。でも、すごく好かれてるとも…思ってはないから。」

 ガツンと頭を殴られたような気がした。もっと頭が痛くなる。あんなにぐいぐいくるレオの目が少しだけひかりから離れ、彷徨う。

「あ、だから…嫌じゃないってのは…嬉しいっていうか…もちろんチョコもめちゃめちゃ嬉しいんだけど…もっと触っていいのかなとか…期待するというか…あ、もちろん変なことはしないよ!病人相手に!」
「っ…!」

 身体は寒い。顔は熱い。全身がもうひかりの思考通りには動いてくれない。

「ひかりちゃん。」
「…は、はい。」
「ほっぺとおでこなら、触ってもいい?」

 その手が優しくて、温かいことを知っている。ひかりは頷いた。それを見たレオは熱がうつったかのような顔で、ひかりの額に手を乗せた。

「…やっぱり熱いね。食欲あるなら作るよ、ご飯。」
「食欲はあんまり…。」
「じゃあコンビニ行ってくる。ゼリーとかするっと入りそうなもの買ってくるね。」
「…うん。ありがとう。」
「じゃあ、そのまま寝てるんだよ?」
「…うん。」

 手がそっと、離れていく。それが寂しいだなんて、どうかしてる。多分熱のせいだ。
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