サンタクロースは君だった
* * *

「ほーぅ、なるほど。」
 
 ひかりの目の前にはサラサラの手入れが行き届いたロングの髪をなびかせる美女、もとい親友の絵美里(えみり)がいた。フリーのライターで仕事が恋人でありながらも、実はちゃんとした恋人もいるできる女だ。

「…絵美里はすごい。わかってたけど。」
「何がよ。ひかりだって充分凄いじゃない。聴くだけで当てられるなんて。」
「そんなの勘だもん。」
「勘でも続けば実力よ。」

 実力者の言うことは違う。

「それで、結局付き合うことにしたの?」
「え、えぇ!?今までの話の流れでどうしてそうなるの?」
「むしろそういう話じゃなかったの?」
「ないよ!あるわけないじゃん!」
「いやー…そろそろその年下くんの熱にひかりが負けるかなって。」
「…負けるも何も…。」
「でも…嫌じゃないでしょ?」
「そりゃ嫌なんかじゃ…。」
「素直に傍にいたいって言えばいいのに。」
「…言えないよ。向こうは…忙しいもん。」

 こんなのが言い訳でしかないのは痛いくらいわかっている。それでも、言えない。自分の気持ちを伝えることがとても難しい。ずっと経験してこなかったものだ。今更失敗してしまったらと思うと怖い。

「でも、向こうが喜ぶことしてあげたいって気持ち、あるんでしょう?」
「…あるよ。だって、私は今まで彼の音楽からたくさんのものを貰ってきたんだもん。」
「まぁ、その理由は彼のCDを買い集めてきた人間が皆等しく当てはまる理由だけどね。でもさ、もうひかりはそれだけの側の人間じゃないでしょ。」

 それだけの側の人間では、もうないのだろうか。

「…絵美里はそう思う?」
「私がそう思うも何も、普通に向こうの部屋行ってて、ご飯も作ってて、ベッドまで拝借してるとなれば一般民とは違うと普通の人は思うと思うけど。」
「…あれは本当に大失態だった…。」
「向こうは弱ったひかりを見れて嬉しかったでしょうよ。」
「なんで絵美里の発言は重いの。」
「経験値の圧倒的違い。」
「…ぐうの音も出ない。」

 少しずつ、会えない時間を意識するようになった。LINEもするし、電話もする。連絡しない日はない。忙しい二人の精一杯で繋がっている。それなのに、会いたいと思うことが増えていく。ほんの2か月前は全く会えない人だったのに。

「…我儘だな、私。」
「いいんだよ、ひかりの我儘なんて向こうにとってはご褒美だから。」

 とてもじゃないが、ひかりにはそんな風には思えない。
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