サンタクロースは君だった
* * *

「美味しかったね、ひかりちゃん。」
「うん!内装もとってもお洒落!」
「前にね、仕事で来たことがあってまた来たいなって思ってたんだ。ひかりちゃんと一緒に来れて嬉しい。」
「…ありがとう。」

 こうして真っ直ぐな言葉を少しずつ受け止めることができるようになった。しかし、受け止めるばかりで返せない。そんなことをしているうちに、レオが遠くに行ってしまうかもしれないなんて不安が掠めていく。

「乗って乗って。」
「うん。」

 今日はレオの運転でここまで来た。車の窓越しに見える夜景が綺麗だ。

「毎日質問、ひかりちゃんにとって大変じゃない?」
「え?ぜ、全然大変じゃないよ!でもごめんね、返事がすぐできない時がたくさんあって…。」
「ううん。ひかりちゃんが多分悩んでるんだろうなぁーって思うのも楽しいから。」

 にこっと笑う。その幼さにも心臓は小さく鳴った。そしてきゅっとハンドルを握り直す姿にも心臓は鳴る。

「あっ、ごめ…!急ブレーキ。」

 すっとひかりの胸の下に伸びた腕が、ひかりを押さえる。

「ごめんね!大丈夫?」
「だ、大丈夫!」
「安全運転…安全運転…。」

 8歳も年下の男の子にこんなに心臓を鳴らしている。小学生の頃は小さな手だった彼をひかりの方が持ち上げていたのに今は違う。レオの腕一つで自分の身体が支えられてしまうくらいに逞しくなっている。

「ひかりちゃん?」
「え?」
「ごめん、もしかして痛かった?」
「あ、ううん。違うの。…大丈夫。」
「そう?あーあ…もう着いちゃう。でも明日お仕事だもんね。我儘言わないよ。」

(我儘、じゃないのに。レオくんが言ってることは、全然我儘じゃない。)

 自分が思ってても言わないことの方が内容的に我儘だ。レオと出会って、レオを知れば知るほど我儘になっていく自分に気付く。嫌われたくないと思うのに、その我儘は消えてくれない。
 ひかりの家の前で車が止まる。ひかりの手が、レオの腕の裾を引いた。

「…ひかり、ちゃん?」
「っ…ご、ごめんね。でも、ちょっとだけ…。」

 もう少しだけ、傍にいたい。明日頑張る元気が欲しい。

「服の裾じゃなくて、こっちを掴んでよ。」

 レオの手がひかりの手を包み込んだ。
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