サンタクロースは君だった
 それからひかりのリクエストを5曲歌ったところで、レオが切り出した。

「…それじゃ最後は、新曲。」
「新曲?でもそれって私に聴かせちゃ…。」
「いや、これは完全にプライベートで作った曲っていうか、どこにいきつくあてもない曲だから。」
「え…?」
「完全に自分のためだけに作ったの。売り物にならないよ。あ、でも待って、タイトル決めてなかった。いーや、じゃあ『失恋したくないソング』で。」

 確かに売り物にならないタイトルだ。しかし、好きなアーティストの新曲と聞いて胸が高鳴らないファンなどどこにいるだろう。

「ひかりちゃんのことだけ考えて、今僕が伝えられる全てで作ったんだ。こんなに時間がかかったの、久しぶりだよ。…言葉が選べなくて。」
「し、仕事に差し支え…。」
「てないよ。そんなことしたらひかりちゃん、悲しい顔するでしょ。だからね、ちゃんと仕事の納期は守ってるし、クオリティも下げてない。もっと会いたかったんだけど会う回数減らしたの。」
「…そう、だったんだ…。」

 確かに2月はあまり会っていない。その裏でまさかこんなことになっていたなんて。

「ひかりちゃんのことを前よりも知って、もっと言葉が増えちゃってさ…精選するのが難しかった。」
「…光栄すぎて…ごめんね、上手く言葉が…。」
「いいよ。では、聴いてください。…『失恋したくないソング』」

 笑えてしまうタイトルだ。それなのに笑えなくて、むしろ涙がこみ上げてきそうなのは最初のレオの声があまりも切なかったからだった。透明感のある歌声は、声変わりしてもそのままにあり続ける。そして、歌うときに少しだけ微笑むその姿も、過去のレオに重なった。いつだってレオは楽しそうに歌っていた。その歌声が好きだった。

『失恋はしたくないんだ。君が相手だから。』

 ずるいフレーズだ。こんなことを歌われて拒める人がいたら見てみたい。ひかりに拒む気などないけれど。

「うわぁ…ひかりちゃん号泣だ。」
「ず…ずるいもん…こんなの…。」
「そっか。ずるかったかぁ、これ。でもこれしか思いつかなかったんだよ。」

 レオがソファーにギターを置いた。そしてさっきまでギターを奏でていたその腕で、ひかりをそっと抱きしめた。
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