サンタクロースは君だった
「レオ…くん?」
「歌うよ。…ひかりちゃんが笑ってくれるから。これからいつでも、ひかりちゃんの傍で。…今は泣いてるけど、さっきまで笑ってくれたもんね。」

 レオの声が耳元で響く。歌声とは違う、少しだけ低い響きに余計に涙が出た。

「うぅ~…ちょっとごめん、無理。しばらく涙が止まらない…。」
「あー…ごめんね。目が腫れちゃうね。」

 ひかりはそっと、レオの背中に両腕を回した。

「ひかり、…ちゃん?」

 ぐしゃぐしゃついでだ。もう、どうにでもなってしまえ。

「顔もちょっと…見せられない。ぐしゃぐしゃ。」
「ごめんね。…でも嬉しいなんて言ったらひかりちゃん、怒る?」
「…怒んないよ。こんなに素敵な歌を聞かせてもらって怒れないよ…。」

 レオの腕が強くなった。

「…泣き止むまでずっとこうしてていい?」
「…ぜひ、お願いします。」
「ありがとう。…まーた僕の方が貰っちゃったなぁ。等しくあげるって難しい。」
「そんなこと…ないのに。」

 レオの胸に甘えて、こうしてすがる29歳はかっこよくない。…そんな考えを捨てようと思う。どう取り繕おうとしたって、レオの前で29歳らしくかっこよくあることなんてできないのだから。外で一生懸命作っている「美潮ひかり」の仮面をレオは剥ぐつもりでいるのだと思うことにした。だとすれば、もうなすがままに剥がされていくしかない。

「レオくん…。」
「なぁに?」
「…素敵な曲をありがとう。…好きな曲がまた一つ増えた。」
「伝わった?」
「…いつも、十分すぎるほどレオくんの気持ちは…貰ってる…し。」
「うん。でも、もっと貰って。そして今みたいに甘えてくれると嬉しいな。」

 そんなの初めて聞いた。こうして自分が甘えることは負担だと思っていた。それを嬉しい、だなんて。

「…嬉しいの?」
「え?何が?」
「私が…えっと、こんな風に…およそ29歳らしくない行動をとること…が。」
「うん?29歳らしいとかよくわかんないけど、…嬉しいけど。今の状況、とっても。」

 頬に触れた手に、顔を上げさせられた。額が重なると、レオが嬉しそうに笑った。
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