サンタクロースは君だった
4.10

「あぁー!なんでひかりちゃん、もう起きてるの!?」
「なんでって…だって今日出勤だし、早番だし…。」
「うわー…失敗。朝、ひかりちゃんを起こして『お誕生日おめでとう』の計画が…。」
「ご、ごめんね!でも昨日レオくん遅くまで仕事してるような音が…。」
「そうだけど!でもひかりちゃんの誕生日は特別っていうか…僕としたことが…。」

 頭を抱えてその場にうずくまるレオに思わず笑みが零れた。笑ってはいけない場面ではあるだろうが、笑わないではいられない。

「…レオくん、可愛い。」
「え?」

 レオが顔を上げる。ひかりはそっとしゃがんでレオに視線を合わせた。

「ありがとう。30歳なんてそんなにおめでたい年齢じゃないけど、レオくんとこんな風に迎えられるとは思ってなかった。だから、ありがとう。」
「…うっ…朝からその笑顔はずるい。」
「え、…えぇ?ず、ずるくないよ!別に普通…。」
「…ひかりちゃんの方がめちゃくちゃ可愛いじゃん…意味わかんない。でも、おめでとう。ひかりちゃんが生まれてきてくれて、僕に出会ってくれて…全部が全部、すごく嬉しい。」

 こんなこと、親にも言われたことがない。親に愛されていないとか、そういうことではもちろんない。ただ、レオが何の曇りもなく真っ直ぐにこう思ってくれていて、そして口に出してくれることがこんなにも嬉しいなんて、また一つ、知らなかった感情を覚えていく気がした。30歳でも感情の全てを知り尽くしているわけじゃない。

「あ、朝ご飯、もう食べる?一応二人分作ってるし、作ったばっかりだからすぐ食べれるよ。」
「食べる。一緒に食べる!」

 ご飯は7:3でひかりの方が作ることが多い。作るときは2人分、というのはレオの提案だった。(ひかりと同じものが食べたいと駄々をこねた)レオの仕事が不規則なこともあるが、一緒に生活し始めて10日で顔を合わせなかった日はない。部屋は別々で、ひかりもレオもパーソナルエリアは確保されているが、あまりそこに居続けることはなくリビングで過ごすことが多い。寝る部屋だけ別、といったある種本当にただの共同生活だった。
 
「いただきます!誕生日なのに作らせちゃってごめんね!」
「ううん。むしろ昨日遅かったのに早起きさせちゃって…。寝癖もそのまんま。」
「鏡見てる余裕なかったし!」
「寝癖があっても芸能人、って感じがするからすごいなぁ。肌も綺麗だもんね。」
「なんにもしてないんだけどね。あ、基本的なことはするけど、過剰には。」
「…今、この世の女性を敵に回したからね?」
「うわ!ごめんね!でもひかりちゃんだって肌綺麗じゃん!」
「それは…最近頑張ってるから…だと、嬉しい…。」

 8歳も年下の彼の隣に並ぶ勇気を養うために、ひかりがまず始めたことはアンチエイジングだった。
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